【紹介】
「世界から猫が消えたなら (小学館文庫)」の作者である川村元気さんの本です。男性誌BRUTUSの連載が、1冊の本になったものです。
【あらすじ(ネタバレなし)】
借金を背負い、妻子に逃げられた男の物語です。借金返済のため昼は図書館司書として、夜はパン工場の作業員として働いているのですが、ふとしたことから宝くじで3億円が当たります。突然の大金に不安を感じた主人公は、かつての友人である九十九のもとを訪れます。その後、九十九の失踪やお金と深く関わった人物達との交流を通じて、お金とは何か?お金と幸せの関係とは何か?といったことを学んでいきます。
【巷のレビュー】
Amazonのレビューは星5つ中の3.5個でした。話題の本の割には、ちょっと低いかなという印象です。発売から半年以上経っていますが、いまだにどこの書店でもランク入りしていたり、平積みされていたりするので、売り上げは好調のようです。
Amazonのカスタマーレビュー低評価の内容を大別すると、
・文章力がない
・引用が多い
・結局何が言いたいのか分からない
ということでした。
【感想】
Amazonではやや低評価が目立ちますが、私はとてもおもしろい本だと感じました。読み始めたら、時間が経つのも忘れて一気に読んでしまいました。理屈は抜きにして、没入できることが良い本の1番の条件だと思います。
「もしも3億円当たったら」という着想も素晴らしいです。誰もが一度は、宝くじの当選を夢想することでしょう。お金の使い道をあれこれ考えたり、破滅への道を想像して怖くなったりと。この本の主人公も不安に取り付かれたり、お金を万能だと思い込んだりしながら学んでいくので、感情移入しやすいと思います。展開には若干のご都合主義がありますが、そこは小説なので許容範囲です。
Amazonの低評価ですが、「文章力がない」と言うほどではありません。読んでいて若干違和感を感じたこともありましたが、読みやすい文章でしたので問題なしです。同じ文章書きとして、本を一冊書ききるだけの体力に感服します。
「引用が多い」に関しては、私は引用推進派です。ヒエログリフが書かれてからすでに5000年以上経っています。大抵のことは、どこかのだれかが書いています。
今の時代に「創る」ということは「選ぶ」ということと同義だと僕は思っている。(押井守/コミュニケーションは、要らない (幻冬舎新書))
映画監督である押井守さんも著書の中でこう言っていました。高度に情報化された現代において、クリエイターに求められているのは、選ぶ力なのかもしれません。押井守さんも「イノセンス」以降は引用は引用として手を加えずに作品に反映するようになったそうです。下手な解釈は言葉を劣化させるだけです。
「結局何が言いたいのか分からない」ということですが、この本を読めばお金の謎が全て解けるとでも思っていたのでしょうか。お金の問題、幸福の問題は答えが存在しません。『幸福論』というタイトルの本は古典的なものでさえアラン、ラッセル、ヒルティの3人が書いています(『ラッセル幸福論 (岩波文庫)』『幸福論 (岩波文庫)』『幸福論 (第1部) (岩波文庫)』)。お金に関する本も古今東西尽きることはありません((文庫)お金の科学 (サンマーク文庫)、バビロンの大富豪 「繁栄と富と幸福」はいかにして築かれるのか)。
お金と幸せという難しいテーマを、宝くじという比較的身近な題材を用いて、解りやすい小説にまとめあげているところに、この本の価値があると思います。
↓過去記事です
catrabbitnekousagi.hatenadiary.jp