【紹介】
解剖学者である養老孟司さんによる、2003年の著書です。
本書は400万部を超えるベストセラーとなり、手元のこの本は2015年の113刷です。
【概要】
この本は、養老孟司さんの話を新潮社の編集部が文章化した本です。
「バカの壁」とは、情報をシャットアウトしてしまう脳の仕組みのようなものだと私は理解しました。詳しくは本を読むことをお勧めします。そもそも、言葉だけではすべての理解は不可能というのもこの本の主張でもあります。
脳や考え方を軸に、現代社会の問題について論じられている本です。
目次
まえがき
第一章 「バカの壁」とは何か
第二章 脳の中の係数
第三章 「個性を伸ばせ」という欺瞞
第四章 万物流転、情報不変
第五章 無意識・身体・共同体
第六章 バカの脳
第七章 教育の怪しさ
第八章 一元論を超えて
【感想】
面白い本でした。なるほどね、と思いながらどんどん読み進みました。
様々な社会問題に対して、面白い視点が投げかけられています。
今の若い人を見ていて、つくづく可哀想だなと思うのは、がんじがらめの「共通了解」を求められつつも、意味不明の「個性」を求められるという矛盾した境遇にあるところです。(第三章より)
個性が叫ばれる世の中でありながら、その一方で空気を読めと厳しく監視される世の中でもあります。この状態を著者は「求められる個性」を発揮しろという矛盾した要求がなされているといいます。「個性」は初めから与えられているものだと主張する著者は、個性教育に対して疑問を呈します。解剖学的に見ると、人間というのは生まれた時点でかなり個性的なものらしいです。
プラトンが言いたいのは平たく言えばこういうことです。
「おかしいじゃないか。リンゴはどれを見たって全部違う。なのに、どれを見たって全部違うリンゴをおなじリンゴと言っている以上、そこにはすべてのリンゴを包括するものがなきゃいけない。」
この包括する概念を彼は「イデア」と定義したのです。(第四章より)
難しいことを簡単な言葉で説明するのは、頭の良い人にしかできません。
日本の場合、三代、四代遡れば殆ど皆、百姓です。つまり都市の人間ではない。そういう人たちが、近代になって突然、あちこちで自然が都市化したのに伴っていきなり都会人になってしまった。(第五章より)
現代人が先行きに不安を感じる理由、怪しい宗教に簡単にはまってしまう理由はここにあるそうです。農民として働いていれば、最悪は自分の畑のものを食べれば生きていけます。土地に根付いた生活をしているので、ちょっと景気が悪くなったからといって路頭に迷うことはありません。その一方、都市に見られる現代的な知的職業は、土地などの依るべきものがありません。日本人はまだ、この急激な都市化に慣れていないのだそうです。また、身体を動かす機会も激減してしまったため、ヨガなどの神秘体験をエサに簡単に宗教にはまってしまう。
他にも、「働かなくても食える社会を目指したら、ホームレスが問題になった」や、「農業を効率化すれば人出が減るのは当然なのに、農家の減少が問題になっている」など、なるほどねと思う話がたくさんあります。
物事を多角的に考えるために、オススメの本です。
(おわり)