【紹介】
柔道事故、組体操や部活動顧問の負担など、教育に関する問題について警鐘を鳴らしている人の本です。
教育という病 子どもと先生を苦しめる「教育リスク」 (光文社新書)
- 作者: 内田良
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2015/06/17
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (31件) を見る
【感想】
ヤフーニュースでこの人の記事をよく目にするので、この本も気になって読みました。私も、危険を顧みず行われている組体操に、違和感を感じていたのです。
ただ「教育」というだけで、子どもや教員に降りかかるリスクが見えなくなる。「教育」という眩い理念の陰で、身も心もボロボロになっている子どもや先生がいる。(本文より)
この本では、「教育」という大義名分のもと、リスクを無視したり軽視した教育が行われている実態が明らかにされています。
大人の労働の世界ではあってはならないことが、子どもの教育の世界で繰り広げられているのである。…今日の巨大化・高層化したピラミッドやタワーは、諸法令が要請する基準とはあまりにも対照的である。(本文より)
いくら危険性が指摘されても無くならない組体操ですが、その問題についても書かれています。大人の労働者が2m以上の場所で作業する場合は、囲いや手すりなどの設置が義務付けられていますが、大人より弱い存在である子どもの組体操に関しては、なんら規制がないのです。工事現場の足場よりも人間ピラミッドの方が明らかに不安定です。そして子どもの身体は未発達で、大人に比べて怪我の危険性も高いはずです。それにも関わらず10段、11段もの組体操が行われているのです。
この本、というかこの著者の特徴は、エビデンス(証拠)に基づいて主張している点です。柔道事故に関しても、単に危ないと言っているのではありません。他のスポーツと比較して事故が突出していることを明らかにして、どんな怪我がどんな理由で起きているかも明らかにしています。部活動顧問の負担に関しても、アンケートを活用し、生徒、顧問、保護者の意見の違いから問題を明らかにしています。著者は、事故事例を収集して、まとめる作業から始めたと書いています。過去の事故が、この著者があらわれるまで教訓とされていなかったという事実に驚かされました。
リスクというのは、その行為にともなう危険性に関して確かな情報が与えられているならば、あとは本人の選択にゆだねればよいという考えは成り立ちうる。ただし、子どもを対象にした教育という場面において、そこまでして高リスクに向き合う意義はないし、ましてや全員でそのリスクに立ち向かう必要もないだろう。(本文より)
「リスクはあって当然」という思考停止状態な意見に対しては、上記のように述べています。登山のように危険を伴う活動は、世の中には確かにあります。しかしそれは、その危険を承知の上で、自分で判断して行っているはずです。子どもは、リスクを正確に判断するだけの知識をまだ持っていません。さらに、教育となれば自分の意思で避けることもできません。自分で判断も出来ず、選択の余地もない子どもにリスクを負わせるのはおかしいという著者の主張は、まさに正論です。
読めば読むほど納得させられる本でした。日本の教育に違和感を感じている人必読の書です。
(おわり)