【紹介】
「ゲゲゲの鬼太郎」で有名な水木しげるさんのエッセイです。
【感想】
水木さんは、戦争で片腕を失ったにも関わらず漫画家になった人です。何度も死にかけた人だけに、エッセイにも重みがあります。
こういう世の中で、自殺者が増えるのもよくわかる。豊かになると、ヒマができる。すると、そのヒマに殺される人も出てくるのではないか。自分が何をしたいのかよくわからなくなって、世の中がつまらなく思えてしまうのである。(本文より)
「小人閑居して不善をなす」とはよく言ったもので、人というのはヒマを持て余すとロクなことをしません。パチンコをしたり、ソシャゲにはまったり、アイドルの追っかけをしたり、ストーカーになったり。毎日食っていくので精一杯というような状況では、自殺なんて思いつきもしないはずです。日本で自殺が多いのも、なまじ豊かになって時間に余裕ができて、ヒマを持て余しているのが原因の一つだと考えられます。
「幸せ」というのは厄介なもので、カシコイ人、エライ人の決めた単純な方法を守っていても、必ずしもうまくいかない。(本文より)
働き者だとすぐ死んでしまいます。怠け者でないと、生きていけないのです。(本文より)
戦争に翻弄され、片腕を失いマラリアに苦しんでなお生還した水木さんには、精神的な強さがあったのだと思います。それも、「耐える強さ」ではなく「受け流す強さ」です。軍規に無頓着であった水木さんは、規則に反しても現地住民と交流し、その結果マラリアで弱った際も食べ物を恵んでもらい、助かっています。極限状態で培ったこの処世術は、今の世の中でも十分通用するはずです。
このしたたかさは、私も見習いたいです。
(おわり)