猫兎ライフ

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真のジャーナリズム【読書感想文】『殺人犯はそこにいいる(文庫X)』清水潔

   

 

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【紹介】

少し前に、「文庫X」としてカバーが隠された状態で売られていた本。最近はタイトルが明かされた状態で売られている。その中身は『殺人犯はそこにいる』という連続幼女誘拐殺人事件を扱ったノンフィクションだった。

【感想】

隠された状態では胡散臭くて買わない。そのまま売られていても犯罪系のノンフィクションは読まない。話題の本のほとぼりが冷めた頃に読みたくなるという、私のようなニッチな読者を掘り起こしたのがこの本だ。

これは、自白とDNA型鑑定による動かしがたい判決に立ち向かう記者の記録だ。文面からは無実の罪で無期懲役を言い渡された菅家さんを助け出し、真犯人を決して逃すまいとする執念が滲み出ている。警察からの情報を鵜呑みにせず徹底的な現場主義で矛盾を暴き出し、真実に迫っていく様に真のジャーナリズムを感じた。

著者は一貫して被害者の立場に立っている。真犯人を捕まえて、被害者の無念を晴らし、次なる犠牲者を出さないのが最大の目的だ。遺族の感情を無視した取材は決して行わない。冤罪で捕まった菅家さんの釈放も、単なる通過地点でしかない。

真犯人を特定しつつもまだ明らかにできない状態にある著者は、最後にこう語る。

お前がどこのどいつか、残念だが今はまだ書けない。

だが、お前の存在だけはここに書き残しておくから。

いいか、逃げきれるなどと思うなよ。(本文より)

 

殺人犯はそこにいる―隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件―(新潮文庫)
 

 

(おわり)