ぼくはきみに、それを語りたい。
どのようにしていま、ぼくらの生きるこの世界が ー 斯く在るのかを。
世界をこのように導いた、数匹の蛇の物語を。(Prologue)
【紹介】
大ヒットゲーム『メタルギアソリッド4』のノベライズ作品です。
著者は、『虐殺器官』や『ハーモニー』で有名な伊藤計劃さんです。
【感想】
まず結論から述べると、これは素晴らしい小説です。ノベライズ作品特有のチープさが全くありません。初代メタルギアソリッドとメタルギアソリッド2は、レイモンド・ベンソンによって小説化されていますが、そちらのほうのスネークは”タフガイ”といった感じがしてしまい、あまり好きになれませんでした。
この本は、ゲーム本編に忠実な内容で、プレイ後に読んでも全く違和感がありませんでした。全編がオタコンの視点で語られています。(オタコンとは、スネークのサポートをするメガネの科学者で、初代メタルギアソリッドの頃からの付き合いになります。) オタコンはメタルギア Mk.IIという小型のロボで、絶えずスネークと行動を共にします。このオタコンの、1人称と3人称の中間のような語りがなんとも絶妙です。
あと、伊藤計劃さんの文章がまた良いんですよね。
物語を、どのように語るか。その「どのように」の部分にこそ、小説の真髄は宿っていると、私は知っています。モーセが紅海を分かち、イエスが水をワインに変える。騎士は姫のために命を懸け、少年はいずこかへと旅にでる。「むかし、むかし、あるところに」。かつて、すべての物語は小説家のものなどではなく、「どこかの、誰かの」物語でした。他者の出来事を語り継ぐこと。吟遊詩人や古代の歴史家、敬虔な使徒たちは、物語を後の世に繋ぐため、様々な「語り口」を生み出してきました。(あとがき)
ちょっと長い引用になってしまいましたが、この「詩的だけどクール」な文体が大好きです。
伊藤計劃さんは、肺がんのために34歳という若さで亡くなっています。病気で衰弱する自分を、急速な老化に苦しむスネークの姿に重ね合わせていたかもしれません。
伊藤計劃さんの冥福を祈ります。
(おわり)
メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット (角川文庫)
- 作者: 伊藤計劃
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/03/25
- メディア: 文庫
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