【紹介】
人類をはじめとする生物の進化を「性」の観点から考察した本です。
赤の女王 性とヒトの進化 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者: マット・リドレー,長谷川眞理子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/10/24
- メディア: 文庫
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【感想】
「なぜゲスは世に蔓延るのか?」その問いに対して端的に答えてしまえば、「ゲスは生物として優れているから」です。
進化とは適者の生存というよりも適者の繁殖である。(本文より)
優れた個体が遺伝子を次世代へ残すことで生物は進化するとこの本では主張されています。適者生存を唱えた「種の起源」とはやや異なる主張です。
考えてもみれば、草食・絶食系男子と不貞の限りを尽くすゲスとでは、どちらがオスとして優れているかは明らかです。子を成せなかったオスの遺伝子は、その代で途絶えます。方々で子を作れば、それだけゲスの遺伝子は拡散します。
この本のタイトルになっている「赤の女王」とは、鏡の国のアリスに登場するキャラクターで、「同じ場所にとどまるためには全力で走り続けなければならない」という言葉が有名です。生物の進化とは、宿主と寄生者(ヒトで言えば細菌・ウイルスなど)、そして同性のライバルたちとの絶え間ぬ軍拡競争であるというのが「赤の女王仮説」です。
「性」とはデリケートなテーマなのでなかなか触れがたいものですが、性の視点から進化を見てみると驚くほどよく説明できるのがわかります。クジャクの羽根などはメスを惹きつける以外の機能はなく、性が生物の進化に大きく関わっている証拠であると言えます。
ヒトに関しても、「金持ちの中年と若い女のカップルはよくあるのに、その逆がないのはなぜか?」という疑問も性と進化から考えるとすぐ解決します。男が行きずりのセックスに憧れる理由や、女が不倫する理由も説明されています。子孫を残すため、男は遺伝子をばらまけるだけばらまいた方が有利。女は、身籠って子育てまでするからパートナーには経済力や協力を求める。そして女は、子育てに協力的な夫さえ捕まえれば、優秀な遺伝子は他から調達できる。
不貞とは不平等な運命である。女性は夫が不貞をはたらいても遺伝子投資では失うものはない。しかし男性は知らず知らずのうちに自分の子でない子を育てる危険がある。(本文より)
女の不倫がエグいのは、上の引用からもよくわかります。男よりも女の不貞に対する方が世間の非難が強かったり、過去には法的に厳しい刑罰が科されていたのはこの辺の事情があるのだと思われます。
ともあれ、この本は決して性差別を支持あるいは助長するような内容ではありません。生物として、男女に性差があるのは認めましょうというスタンスです。また、著者自身この説が万能だとはしておらず、過去の様々な仮説と同様に
赤の女王流のアプローチも、このまちがいだらけの物語の一章にすぎなくなるのは確かだ。(本文より)
と書いています。
最近流行りのゲスの騒動も、こういった知識があるとより一層楽しめます。
(おわり)