【紹介】
ドイツの作家、アンドレス・セシェさんの本です。
【感想】
内気な青年ヤニスが古書店の美しい女店主リオに出会うという、どこかのビブリア古書堂のようなお話です。
「アルケミスト」「戦争と平和」「赤ずきん」などの本や、「セルバンテス」「ポー」「シェイクスピア」などの作家が登場し、まさに本好きにはたまらない内容になっています。
バミューダの魔の三角海域も同じだ。…たいていは競合する別の船会社を決まった海路から遠ざけるために船会社がわざと流したデマだ。(本文より)
バミューダトライアングルに関する豆知識です。小説に描かれている内容をそのまま信じるのもどうかとは思いますが、デマだというのはもっともらしいと思います。
…よい物語は読み手によって異なった読み取り方をされるのです。書かれた文字がどのように読み手に届くかはっきりしないため、独裁者は書物をとても恐れ、焚書にすることもあります。(本文より)
焚書に関する記述です。書物の持つ力、物語の持つ力が感じられます。
…この本は、個人的な感情と、辱めを受けたひとりの男の復讐心から生まれたものなのです。(本文より)
悪名高き「魔女への鉄槌」の起源に関する記述です。魔女狩りを引き起こし、数多くの人の命を奪ったこの本が、ひとりの男の個人的な感情から生まれたとは知りませんでした。
わかりませんか?人の一生も物語です。物語をだれかに捧げられるなんてすてきじゃありませんか(本文より)
古書店の女店主リオの言葉です。とても生身の人間ではこんなキザなセリフは言えたものではありませんが、物語の登場人物なら可能です。そして、著者の物語に対する気持ちが込められているように感じられます。
この物語のラストもまた素敵なのですが、あのオチは大陸側のヨーロッパの人間でないと書けないと思います。
(おわり)