【紹介】
1987年に書かれた、次期アメリカ合衆国大統領候補ドナルド・トランプ氏の自伝です。
- 作者: ドナルド・J.トランプ,トニーシュウォーツ,Donald J. Trump,Tony Schwartz,相原真理子
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2008/02/06
- メディア: 文庫
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【感想】
共和党の次期大統領候補であるトランプ氏の自伝です。過激な発言で票を集め、まさかまさかで共和党の代表となった人です。極めて内向的・保守的な発言をしており、大統領となれば世界や日本への影響は大きいとみられています。
30年近く昔に書かれた本ですが、トランプ氏を理解する上では第一級の資料であると思うので、その人となりをプロファイリングするつもりで読みました。以下は、引用を交えつつトランプ氏の性格を読み解いていきます。
ズルはしない
切符は僕のオフィスを通じて手に入れているかい、とゲリーがきく。そういうことはしたくないんだと言うと、彼は言った。「ばか言うな。うちには友人のための切符を手配するのを仕事にしている女性がいるんだ。これが彼女の番号だ。遠慮せずに電話してくれ」
ゲリーの好意をうれしく思った。(本文より)
ツテでミュージカルのチケットを手に入れることに対して「そういうことはしたくない」と発言しています。ちょっとしたズルもせず、公正な取引をする人物であるようです。
カンを重視、分野を絞る、引き際をわきまえる
この経験から、私はいくつかのことを学んだ。第一に、書類の上でどんなによさそうに見える話でも、自分自身のカンに頼って判断すること。第二に、総じて自分のよく知っている分野でビジネスをするほうがうまくいくこと。第三に、時には投資を思いとどまることも利益につながるということだ。(本文より)
カンを頼るということですが、世界一の大国がカンを頼りに動くのは少し怖い気がします。カンが外れてはこっちにまで迷惑が及びそうです。分野を絞り引き際をわきまえる、ということはいまのアメリカ至上主義につながっている気がします。下手に他所に手出しをせずに、アメリカ国内に目が向きがちな大統領になりそうです。
マスコミ嫌い
私はマスコミに登場するのが好きだと世間からは思われているが、実はそうではない。(本文より)
これは意外です。トランプ氏はアジテートがうまく、マスコミ好きだと思っていたのですが、違うようです。しかし、嫌いなマスコミも利用する強かさ・計算高さがうかがえます。「利益のためなら我を抑える」という点は、外交をする上で攻略の糸口になりそうです。
ゴリ押し術
私の取引のやり方は単純明快だ。ねらいを高く定め、求めるものを手に入れるまで、押して押して押しまくる。(本文より)
トランプ氏は、譲歩をしません。一定のライン以上は絶対に引かない人物です。
実は慎重
私は積極果敢な考え方をすると人は言う。だが実際には、私は消極的な考え方を良しとする。商売では極めて慎重なほうなのだ。つねに最悪を予想して取引にのぞむ。(本文より)
取引には、どちらに転んでも自分は損をしない状態を作ってから臨みます。上記のゴリ押し術とあわせて考えると、トランプ氏のラインを見誤って交渉すると、かんたんに取引が反故になる可能性があります。
誇張する
宣伝の最後の仕上げははったりである。人びとの夢をかきたてるのだ。人は自分では大きく考えないかもしれないが、大きく考える人を見ると興奮する。だからある程度の誇張は望ましい。これ以上大きく、豪華で、素晴らしいものはない、と人びとは思いたいのだ。
私はこれを真実の誇張と呼ぶ。これは罪のないホラであり、きわめて効果的な宣伝方法である。(本文より)
過激な発言が目立つトランプ氏ですが、大統領になったら落ち着くと私は思っています。誇張や芝居はトランプ氏の得意とするところであり、過激な発言は選挙のためのパフォーマンスだと思います。
コストに厳しい
ちりも積もれば山となるから、1セントでも粗末にしてはいけないことを父から学んだ。…どんなに素晴らしい計画を立てても、妥当なコストで実現しないかぎり意味がない。(本文より)
不動産屋なので、コストに対する考え方が非常にシビアです。アメリカの政策を決める際も、コストに見合わないものはどんどん削られていくと思います。日本に防衛関係の負担を求めているのも、このコスト意識のためだと思います。
日本を良く思っていない
ただ残念なのは、日本が何十年もの間、主として利己的な貿易政策でアメリカを圧迫することによって、富を蓄えてきた点だ。アメリカの政治指導者は日本のこのやり方を十分に理解することも、それにうまく対処することもできずにいいる。(本文より)
おそらく、貿易摩擦が激しかった時代のためでしょう。原因がなんであれ、日本に対するイメージはあまり良くなさそうです。また、ウォール街の連中(金融関係者)も良く思っていない印象を受けました。
話せばわかるが・・・
時によって訴訟が避けられない場合もあることはわかる。それがビジネスの世界の現実だと割り切っている。しかしだれかが話し合うつもりだと言った時は、当然その約束が守られることを期待する。(本文より)
基本的には話し合いで解決を図りつつ、争いも辞さないスタイルです。就任当初は国内政治を優先してイメージがありますが、テロが起きたり外交が頓挫した際はどこまでやり合うかわかりません。
社会奉仕
これからの二十年間の最大の課題は、これまでに手に入れたものの一部を社会に還元する、独創的な方法を考えることだ。(本文より)
なぜトランプ氏は立候補したのか?ある程度儲けたら人は権力を欲するようになるのか、はたまたこの本の通り社会奉仕の精神なのか。
【あくまで自伝なので】
この本を読むかぎり、そこまで悪い人ではなさそうな印象を受けました。むしろ、リーダーにふさわしい人物です。しかし、あくまでこれは自伝なので悪いことは書かれていません。
参考程度には、トランプ氏の人となりがわかる本でした。実際の人物がどうなのかは、今後の動向をじっくりと見極めていきたいところです。
(おわり)