【紹介】
イスラムの宗教や社会について書かれた本です。
【目次】
はじめに
Ⅰ 宗教
Ⅱ 法と倫理
Ⅲ 内面への道
後記
【感想】
いままでイスラムに関する本を何冊か読みましたが、この本が一番わかりやく内容も充実していました。Q&A形式の簡単な本よりも掘り下げられ、それでいて難解な表現のない読みやすい本でした。
異常に狭くなったこの世界空間の中に、それぞれ違った文化伝統を担った多くの民族が雑然と投げ込まれて、押し合いへし合いしている。(本文より)
グローバル化が進み世界は一つになるかと思いきや、紛争やテロが絶えることはありません。交通や通信が発達して世界が相対的狭くなったため、国や文明間での衝突が増えたのです。イスラムと西欧との衝突が増えたのも、これが原因だと思います。
イスラムの理解に参考になる内容が盛りだくさんでした。
こうしてイスラームは最初から砂漠的人間、すなわち遊牧民の世界観や、存在感覚の所産ではなくて、商売人の宗教 ー 商業取引における契約の重要性をはっきり認識して、何よりも相互の信義、誠、絶対に嘘をつかせない、約束したことは必ずこれを守って履行するということを、何にもまして重んじる商人の道義を反映した宗教だったのであります。(本文より)
イスラムというと砂漠の民のイメージがありますが、イスラム教の創始者であるムハンマドは商人でした。そのためイスラム教には商人的な気質が色濃く反映されているようです。信義を重んじる反面、融通のきかない宗教になってしまったのでしょうか。
とにかく本物、偽物とりまぜて何万という数の「ハディース」が『コーラン』の周りを十重二十重に取り囲みまして、まんなかにある『コーラン』はそのプリズムを通して種々様々の意味に分裂して解釈されます。(本文より)
イスラム教の聖典は『コーラン』のみですが、「ハディース」と呼ばれるムハンマドの言行録もまた同等に神聖視されているのだそうです。イスラムにも様々な宗派があり、コーランのみを絶対視する派やハディースも重要視する派、コーランの解釈さえも禁止する派閥など、さまざまありイスラム内部でも争いは絶えません。
イスラームにおいては、宗教は人間の日常生活とは別の、何か特別な存在次元に関わる事柄ではない。人間生活のあらゆる局面が根本的、第一義的に宗教に関わってくるのです。(本文より)
日本を含めた西欧文明では政教分離が基本ですが、イスラムでは生活の全てが宗教と密接に関わっているので政教分離はあり得ません。この根本的な部分からして、西欧文化とイスラムはなじめないものなのでしょう。
上記の引用は全て第1章に当たる「I 宗教」からのものです。ここだけでもイスラムがどういうものなのかよく分かる目からウロコ状態です。我々日本人の感覚からはかけ離れた文化のイスラムですが、この本を読めば理解が進みます。
(おわり)