猫兎ライフ

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【アニメレビュー】『ピンポン』

   

 

ピンポン STANDARD BOX(通常版) [DVD]

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高校卓球を題材にした同名漫画を原作としたアニメ。

画風が変だからといって敬遠しないでほしい。食わず嫌いはマジでもったいない。ストーリーは王道で胸熱。クオリティは驚くほど高い。語っても語りつくせぬ魅力がある。だがあえて語ろう。

【画風】

まず目につくのがその独特な画風だ。これは大きく好みがわかれる点だろう。実際、私自身も最初はこの画風が好きではなかった。しかし観ているとだんだんとこの画風の良さがわかってくる。

一見すると雑なような、適当なような感じに見えるが実はリアル志向なのだ。鼻や耳のしわまでも省略されずに描かれており、キャラクターごとに顔つきが骨格から異なっている。

骨格といえば体つきも意外とリアル。若干のアニメ的な表現こそあれど、過度なデフォルメはされておらず、モーションも人間の骨格を逸脱していない。

背景や小物も良く描かれている。決して今流行りの小綺麗な絵ではない。だが、よく対象を観察して描かれている感じがする。

 【ストーリー】

ストーリーがまた最高。友情、挫折と苦悩、努力と成長、過去の呪縛と解放、原点回帰、そしてハッピーエンド。卓球という一見地味(?)な題材と独特な画風に惑わされがちだが、内容は極めて王道。胸熱の展開。

母国の中国で挫折した孔、自らを追い詰めるドラゴン、ヒーローを待ち続けるスマイル、挫折したペコ。それぞれにドラマがある。

最終的にヒーローは見参する。そして苦境を乗り越え勝利する。

単行本5冊で完結する内容なので、分量も丁度良い。長期連載のように下手に延命されていたり、蛇足的なストーリーも無い。全てが結末に向けて収斂されていく感じ。

【キャラ】

キャラクターは皆個性的で魅力的。

おかっぱの星野(ペコ)、眼鏡の月本(スマイル)、ツリ目の佐久間(アクマ)、ガチムチスキンヘッドの風間(ドラゴン)、気取った雰囲気の孔(チャイナ)、等々。一目で分かる外見と、覚えやすいニックネーム。

主要キャラが少ないのも良い。スポーツものでありがちな、「◯◯高校の××といわれて誰だかよくわからない」という現象が無い。

声優さんもいい仕事してる。どのキャラも声と演じ方がイメージとマッチしている。 タムラのばあさんとか「オッス!オラ悟k…」だしね。

【音楽】

音楽も最高。OPとEDは普通に良い。注目すべきは効果音とBGM。

卓球してる時の音がリアルで良い。球を打つ音、台で跳ねる音、シューズと床が擦れる音。どれも軽快でリズムがあり小気味が良い。

 そしてBGM。このBGMが物語を最高に盛り上げてくれる。口じゃ説明出来ないんだけど、超良い(語彙)。久々にサントラ欲しいと思った。

【現代風アレンジ】

原作が始まってからアニメ化されるまで実に20年近く経っている。この時代の変化に合わせたアレンジが加えられていた。

まずは顧問の小泉の年齢。過去に引退した選手であり、月本との試合ではバテてぶっ倒れるなど高齢であることが強調されるキャラだ。原作では62歳のところアニメ版では72歳になっている。

技術の進歩も反映されている。インハイ予選準決勝で風間が敗れた後、原作にはその結果を公衆電話で報告している場面がある。これがアニメ版ではノートPCのボイスチャットになっている。会場の動揺や余韻は、ラインやツイッター風のやり取りで見事に表現されている。

 【オリジナル要素】

基本的には原作に忠実なので、話の流れは漫画と変わらない。アニメ版のオリジナル要素というのは嫌われるものだが、このアニメに限っては悪くない。むしろ個人的には好きだったりする。

まずは心象風景の描写。実際には起きてないイメージの世界の描写だ。スマイルはロボット、ペコはヒーロー、ドラゴンは真っ黒な裸体で描かれる。いかにもアニメらしい演出なのだがクサさが全くない。キャラのイメージにマッチしている。

原作には無い追加シーンで特に好きなのが2つある。まずはペコとチャイナが初めて手合わせした練習試合。原作でもアニメでもペコはスコンクで完敗。漫画ではあっさり吹っ飛ばされて終わっている。アニメではラリー中に孔のセリフが入る。卓球の本場である中国で挫折し、日本の劣悪な環境置かれていることに対する怒り、苦悩、焦りが伝わってくる名シーンだ。ここのBGMと孔の中国語がまた良い。アップテンポで煽るようなBGM「Like A Dance」に耳障りの良い中国語が乗る。

もう1つがペコとスマイルの決勝戦。スマイルが初球からペコの膝を攻めるようにフォアに深く打ってバックに切り返すのは原作通り。アニメ版にはその後がある。ペコのスマッシュを追うスマイルが柵にダイブしながら打ち返すシーンだ。一瞬、倒れたスマイルを案じるペコだったが返ってきた玉を再び全力で叩き込む。スマイルは起き上がり、球に食いつき、当然のようにラリーは続行する。無遠慮で常に全力でそして楽しい。子供の遊びのそうな清々しいしさがある。

【映画版について】

ピンポンには実写の映画版があって、これがまた高評価。ちょっと観てみたけれど、どうしてこんなに高評価なのかよく分からなかった。演技は不自然に感じるし、セリフが変わってるのがひどい。全てを語らぬ会話の機微みたいなものが原作にはあったのに、映画版では直接的な表現が多くなっている。ペコとドラゴンの試合中の「勝つのか?」とかもう最悪。2人の優劣は明確になっているはずだし、そんなの言葉に出すような場面でもないし、そもそも勝ち負けを超越した場所に2人は到達していたはず。

 【まとめ】

結論は、ピンポンは最高のアニメだということ。原作が素晴らしくて、アニメ版には原作へのリスペクトが感じられる。基本は原作に忠実ながらもアニメにしか出来ない表現を取り入れ、時代に合わせたアレンジをしているのも高評価。

個人的には原作の漫画を超えたアニメなんじゃないかと思う。

(おわり)