猫兎ライフ

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俺の名はイシュメールと呼んでもらおう【読書感想文】『白鯨』/メルヴィル/角川文庫

   

 

【紹介】

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今から164年前の1851年に、アメリカの作家メルヴィルによって書かれた小説です。語り手は、船乗りイシュメール。白鯨「モービー・ディック」への復讐に燃える老人エイハブ船長と、その船ピークォド号の捕鯨航海の話です。

 

白鯨 (上)<白鯨> (角川文庫)

白鯨 (上)<白鯨> (角川文庫)

 

 

【感想】

とても読むのが辛かったです。なんと表現して良いのか分からないのですが、とにかく読みづらい小説でした。語り手の視点はしょっちゅう変わるし、いきなり鯨についての解説が始まったり(しかも鯨の話は1度では済まず、何度も出てきます)、登場人物のセリフは長ったらしくて現実感に欠けています。この『白鯨』は、「手に取られることは多いが、最後まで読まれない小説」と言われているそうです。私も、ネームバリューがなければ最後まで読み切ることはなかったでしょう。

なぜこの小説が有名になったのかは分かりませんが、19世紀当時の捕鯨船の様子を知るためには一級の資料です。著者であるメルヴィルは、捕鯨船の乗組員の経験があります。ピークォド号には、食人種や黒人やインディアンが乗り込み活躍しています。まだ人種差別が激しかった時代だとは思いますが、船の上では比較的緩かったのかなという印象を受けました。

所々には、当時の船乗りの様子がよくわかる記述があります。

疾風、ボートの顛覆、つづいて水上での一夜の野宿というようなことは、こういう生活にあっては日常茶飯事だ・・・(本文より)

船上生活の破天荒さが垣間見える記述です。当時はGPSも無線もなければ、サーチライトもないはずです。一度本船とはぐれたボートは、本当に心細かったと思います。それが日常茶飯事だなんて信じられません。そのまま一夜じゃ済まず、永久に海を彷徨うことになったボートも数多くあったことでしょう。

 

世界一周!その響には誇らしい感情をひきおこすに足るものがあったが、しかしその世界周航の行きつく先はどこなのであろう?ただ無数の危険をおかして、出発点にもどるということ、安住するがままに俺たちが見棄ててきた人々が、いつも俺たちの前方にあるということだ。(本文より)

世界一周と聞くと、大変な大冒険に感じますが、結局は地球を一回りして元の場所に戻ってきます。捕鯨航海に出航しても、危険をおかして行きつく先は、元の港です。その辺りの無常観が感じられます。

 

ジン・・・550樽

ビール・・・10800樽

・・・1人当たり12週間分のビールが正味2樽あるわけだ。(本文より)

 うらやましい話です。この樽は、バレルなので2樽で約240ℓです。単純計算で1日あたり2.8ℓ飲むことができます。当時は保存のきかない水の代わりに、エールビールを飲んでいたという話も聞いたことがあります。こんな量を飲んでいたら、毎日二日酔いか、下手をしたら常に酔った状態で航海をしていた可能性もあります。以前読んだ『フランクリン自伝 』にも、職人は昼からビールを飲んで酔いながら仕事をしていたという記述があったので、船乗りも当然飲んでいたと考えるのが妥当でしょう。良い時代です。

 【日本語訳に関して】

 この『白鯨』ですが、私が確認しているだけで、角川文庫、新潮文庫、岩波文庫から出ています。どれが良いとは一概には言えませんが、新潮文庫版だけは勧められません。店頭で立ち読みしたのですが、新潮は約が古臭すぎます。初版が1952年なので仕方ないのかもしれませんが、ただでさえ読みにくい白鯨を、さらに難解にしています。アマゾンでレビューが高いのは岩波文庫版です。私は直接見ていませんが、レビューでは「ぶっ飛んだ和訳」が好評を得ています。私が読んだ角川文庫版は、堅実な印象を受けました。

【まとめ】

もとはメタルギアソリッドVをプレイして、その題材に『白鯨』があると知って読み始めました。「俺の名はイシュメールと読んでもらおう」という書き始めは良かったのですが、その後はただただ辛い読書が続きました。全然読み進まないので、上・下巻で2週間くらいかかってしまいました。

ワンピースに登場する「白ひげ」の海賊船が本書の原題から「モビー・デック号」と名付けられていたり、カフェチェーンの「スターバックス」はピークォド号の一等航海士「スターバック」が元ネタになっていたりと、話題性には事欠かない小説です。ですが、通して読む必要は全く感じられませんでした。

(おわり)