【紹介】
臨床心理学者である河合隼雄さんと、ノンフィクション作家である柳田邦男さんの対談集です。
【感想】
臨床心理学者とノンフィクション作家というのは畑違いではないかと思っていましたが、そんなことはありませんでした。臨床心理学者は人の心を扱います。そしてノンフィクション作家は現代の社会を扱います。
この本を読めばわかりますが、人の心というのは自身を取り巻く環境とは決して不可分ではありません。心の病になる時も、少なからず社会的な影響があるでしょう。今は臨床心理の現場にもソーシャルワーカーという人がいて、患者の、目に見える社会的な部分での問題解決に当たります。
引用したい文もたくさんあるのですが、前後の文脈も含めないとなかなか分かりづらいので、目を引いた一文の紹介に留めます。
それぞれの青年はお釈迦さんとおんなじレベルぐらいで悩まされている。(河合/本文より)
かつて、釈迦国の王子として生まれたブッダは、何不自由のない暮らしをしていました。しかし、「なぜ人は苦しむのか?」という答えを求めて出家しました。現代に暮らす我々も、王子ほどではないにしろ基本的に衣食住には困らない生活をしています。「食い物が無い」程度の悩みならば「働いて何か買って食べる」と答えは簡単に出ますが、衣食住が足りた状態では「私がこの世に生まれた意義は何だろう」等、人類が未だ答えに到達していないような問題に悩むこととなります。
社会の変化に合わせて悩みの質も変化しているというのは、ノンフィクション作家との対談だからこそ浮かび上がってくるテーマだと思います。
(おわり)