「人間はいかに生きるべきか」「人生はいかにあるべきか」という問いは、私たちが人生で直面する様々な問題の中でも、一番基本にある問いといえます。それはまた、昔から古代ギリシアのソクラテスをはじめ、多くの優れた先人が生涯を通じて考え抜いた倫理の根本問題です。
ただ過去の知識を習得することに終わるならば、倫理を学ぶことほど不毛でつまらないものはないでしょう。私たちが自分自身の心と行動のあり方を反省しながら、人間の生き方・あり方について主体的に問い進めていくところに、倫理を学ぶ意義があるからです。
山川の「もういちど読む」シリーズです。教科書がベースとなっているので、全編を通して簡潔かつ明快な文章になっています。
目次
ふたたび倫理を学ぶみなさんへ
序章 現代社会と自己への道
プロローグ 自分を探す旅
1 自己の発見
2 他者との出会い
3 社会に生きる自己
4 人生の意味を求めて
第1章 思索の源流
1 哲学と思索
2 宗教と祈り
第2章 西洋の近代思想
1 人間の尊厳
2 近代科学の考え方
3 民主主義の考え方
4 近代の理性的な人間像
5 人間と働くこと
6 幸福と創造的知性
7 真実の自己を求めて
8 生命の尊厳とヒューマニズムの思想
9 新しい知性と現代への批判
第3章 日本の思想
1 日本の風土と文化
2 古代日本人の心
3 日本人と仏教
4 儒教とさまざまな思想
5 日本の近代化と新しい思想
第4章 現代の倫理的課題
1 科学技術の発達と生命
2 地球環境と私たち
3 情報社会とその課題
4 国際社会と異文化理解
5 世界の平和と人類の福祉
エピローグ 命の星に生きる
やや詳しく目次を紹介しました。見てわかる通り、気になるトピックが満載です。「人生の意味」「働くこと」「異文化理解」など、普段生活していて疑問や不安を感じる題材です。ですが、これらの題目について明確な答えは書かれていません。冒頭の引用にもありますが、人間の生き方・あり方について主体的に問い進めていくところに、倫理を学ぶ意義があるのです。先人たちの考えや、歴史的経緯などは詳しく紹介されているので、大いに自らの思索の参考になります。
テストに出そうな部分(読みながらラインを引いたところ)が多いので、その中でも一部のみ紹介して、感想を述べていきます。
なんのために生まれて、何をして生きるのか
自分はなぜ、何のため、今、ここに存在しているのだろうか、という疑問に目覚めたりすることがある。そのような疑問や驚きによって、私たちはふだんの生活の流れの中から自分を取り戻し、人生を自覚的にみつめ、問うことのできる主体、すなわち哲学する人間となる。(第1章 思索の源流)
一歩引いて、自分を見つめるところから哲学は始まります。ただ漫然と生活していたり、がむしゃらになりすぎていても、自分を見つめることはできません。「何のために自分は存在しているのか」なんて考えるのは、余計なことだと感じていた時期もありました。目の前の仕事や勉強だけをやっていれば良いのだと。ですが、不安に悩まされながらも思索を続けることが哲学なのかなと、最近は思うようになりました。
ルネサンスって、ぶっちゃけ何なのか
14世紀から16世紀にかけて、北イタリアの都市を中心に、商業によって経済力をたくわえた市民が、現実的な人間中心の文化を築いた。このような新しい文化の動きをルネサンスと呼ぶ。(第2章 西洋の近代思想)
さすが教科書です。簡潔に表現されています。中世ヨーロッパは信仰に基づく神中心の文化でしたが、人間中心の文化を築く中で古代ギリシアやローマの人間味のある文芸を再生しようとしました。そのため、ルネサンス=文芸復興と訳されるようです。単なる懐古主義ではなく、人間主体の文化を求めた、というところがポイントのようです。
【まとめ】
まだまだ紹介したい内容は山ほどあるのですが、きりがないのでまとめます。
・教科書ベースの本
教科書が元になっているので、浅く広く書かれており、倫理全般について学びたい人にオススメです。
・何気なく深い問いがある
浅く広くとはいうものの、書かれている内容は本質的であり、考えさせられる題材ばかりです。そして答えはなく、自らの頭で考えていく必要があります。
・わかりやすい
一例でルネサンスを出しましたが、なんとなく授業で習って、うろ覚えになっているような内容が、簡潔にまとめられています。下手にネットで調べるよりもわかりやすいです。